法定後見の申立ができるのは誰ですか?

①被後見人となる本人
②本人の配偶者
③本人からみて4親等内の親族(いわゆる「いとこ」まで)
が一般的です。この他に、お住まいの市区町村の長も申立人になることができます。ただし、市区町村によってはこの申立を実質行っていない場合もあります。

誰が後見人になるんですか?

当然に申立を行なった人が…なるわけではありません。もちろん、申立時に推薦人を立てることができますので、8割方は本人の親族が選任されているようです。たとえば本人の子供のほうが赤の他人より本人のことを知っており、本人の意向に沿った行動をとることができるでしょうから、これは当然のことと言えます。
しかし、常に親族が後見人になるのが最良かというと、そうも言えません。たとえば、財産が多額で管理が難しい場合、後見人となるべき親族と本人の関係が悪く、本人の意向に沿わない場合などは、推薦した親族が後見人になると不具合が生じてしまいます。
このような場合など、家庭裁判所は様々な事情を考慮して後見人を選任します。つまり、常に推薦した人が後見人等に選ばれるわけではない、ということです。最終的には推薦した人とは異なる専門職(司法書士、弁護士など)が選ばれる場合もあります。また、後見人として推薦した親族を選任するのと併せて、後見監督人として専門職が選ばれる場合もあります。
なお、以下の人はいくら推薦しても後見人となることができません。
①未成年者
②家庭裁判所で免ぜられた法定代理人、保佐人または補助人
※何らかの理由で後見人等を解任された場合など
③破産者
④被後見人、被保佐人、被補助人に対して訴訟をし、またはした者およびその配偶者ならびに直系血族
※本人に対して訴訟を提起した場合、本人から訴訟を提起された場合どちらも
⑤行方の知れない者

親族以外が後見人に選任されるのはどんな場合?

後見人となるべき親族等に関して、次のような事情がある場合です。
・親族間に意見の対立がある場合
・遺産分割協議など、本人と親族に利益相反が生じる場合
・親族が遠隔地に居住していたり、身体が不自由である場合
・本人について、訴訟などの法的手続を予定している場合
・本人の財産の現金が多額である場合
以上が主なパターンです。要は、安心して後見人を任せられる親族等がいない場合や、財産管理が難しい場合、法的な知識や対応が求められる場合になります。詳しくは、以下の後見監督人が選任される場合もご確認ください。

後見監督人が選任されるのはどんな場合?

後見人に親族等が選任されたとしても、家庭裁判所が職権で後見監督人をさらに選任することがあります。以下は東京家庭裁判所の判断基準ですが、このような事情がある場合は①専門職後見人が選任される、または②後見監督人が選任される、もしくは③後見制度支援信託の利用を促される、ことになる可能性が高いと言えます。
・被後見人の流動資産(現金等)が500万円以上あるが、後見制度支援信託の利用がない
・親族間に意見の対立がある
・財産の額や種類が多い
・不動産の売買や生命保険金の受領など、申立の動機となった課題が重大な法律行為である
・遺産分割協議など後見人と被後見人との間で利益相反する行為があり、その行為について後見監督人に被後見人の代理をしてもらう必要がある
・後見人と被後見人との間に高額な貸借や立替金があり、その清算について被後見人の利益を保護する必要がある
・長年の間、後見人と被後見人との関係が疎遠であった
・賃料収入など、年によっては大きな変動が予想される財産を保有するため、提起的な収入状況を確認する必要がある
・後見人等と被後見人との生活費等が十分に分離されていない
・申立時に提出された財産目録や収支状況報告書の記載が十分でないなどから、今後の後見人としての適正な事務遂行に不安がある
・後見人候補者が自己または自己の親族のために被後見人の財産を利用(担保提供を含む)し、または利用する予定がある
・被後見人について、訴訟・調停・債務整理等・法的手続きを予定している
・被後見人の財産状況が不明確であり、その調査について専門職による助言を要する

専門職後見人って?

利害関係の有無や財産管理の困難さから、親族を後見人等に選任することが不適当と判断されるケースがあります。そんな場合に、後見人等に就任することになる専門知識を備えた第三者です。
司法書士、弁護士、社会福祉士、税理士、精神保健福祉士がこれに相当しますが、選任されるのは司法書士が最も多く、弁護士、社会福祉士と続きます。

後見人の職務とは?

後見人が就任中に行う職務は主に以下のとおりです。
①財産管理:預貯金の管理、税金などの支払い、福祉手当申請などの各種届出、不動産の管理、不動産など重要な財産の売買など
②身上監護:入院や介護の契約や費用支払い、介護の依頼など
③家庭裁判所への報告
ただし、いずれも本人の意向を尊重して行なう必要があります。つまり、本人の自宅売却が目的で後見申立をしたとしても、それが本人の意思に反するものであれば、後見人は本人の意向に沿って売買を行わないこともあり得ます。
ちなみに、手術などの医療行為に関する同意、本人に対する介護、また身元引受人や保証人になるなどは後見人の職務とはされていません。

認知症の人のためだけの制度ですか?

民法の規定では、「精神上の障害により事理を弁識する能力」について問題のある人が後見人となるべき対象とされています。高齢者人口が増加している現状では、認知症や痴呆症という症状の方が多く当てはまるのですが、他にも知的障害がある方、脳梗塞などの病気で倒れて意識を失った方(いわゆる植物状態)なども、後見制度の対象と言えます。

申立をしてから、どれくらいで後見が開始しますか?

大まかな目安として、2~3カ月程度かかる場合が多いようです。ただし、数週間で開始する場合もあれば、半年くらいかかってしまうこともあります。
たとえば、すでに認知症がかなり進行しており、医師による鑑定が不要な場合。また、親族がほとんどいないため、家庭裁判所による親族への照会がほとんど行われない場合などは、期間が短くなる可能性が高いでしょう。逆に、親族が多かったり、ほとんど連絡が取れないなどの事情があれば、審査の期間は長くなります。

被後見人になると、戸籍に記載されますか?

戸籍には記載されませんが、代わりに登記されることになります。何らかの職業に就く際に、後見の登記がされていないことの証明を提示するよう求められた経験がある人もいるのではないでしょうか。これは、後見の登記がされているために証明を行うことができるわけです。

医師による鑑定は必ず行われるんですか?

後見の申立をした後、本人の判断能力の有無や程度について、家庭裁判所が必要と判断すれば医師による精神鑑定が行われることになります。もちろん申立時に医師による診断書を添付して、どの類型(成年後見、保佐、補助)がふさわしいのかを示しているのですが、それでも不十分と判断された場合に鑑定が実施されることになります。
その比率は、全申立中の1割程度。多くの場合は鑑定が行われることなく、手続きが進むと言えます。

医師による鑑定の費用や期間は?

前述の精神鑑定を担当するのは、多くの場合が申立時の診断書を作成した医師となります。そして、鑑定の費用は医師によってまちまちですが、5万円以下で済むパターンが6割ほど、5~10万円となるパターンが4割ほどであり、5~10万円が目安と言えます。
鑑定に要する期間も人によりけりですが、大半は1ヵ月ほどとなっているようです。

後見人にはいくら支払う?

後見の申立をして、専門職(司法書士、弁護士、、社会福祉士等)が選任された場合、報酬が発生します。もちろん、この場合の報酬は本人(被後見人)の財産から拠出されることになり、申立人に支払い義務は生じません。
報酬の基準として裁判所が設定しているのが月額2万円です。これは、おおよそ預貯金などの財産額が1000万円までの場合で、1000万円~5000万円の場合は月額3~4万円、5000万円を超える場合は月額5~6万円とされています。反対に、財産がほとんどない場合は報酬が実質的に免除される場合もありますので、財産が少なくても後見制度の利用は可能です。また、保佐や補助でも報酬額は成年後見と同じです。
なお、専門職ではない親族後見人も、報酬付与の申立をすることによって報酬を得ることができます。

後見監督人にはいくら支払う?

親族などが後見人に就任した場合など、専門職の後見監督人が選任されることがあります。この後見監督人にも報酬が発生します。
目安としては、管理財産が5000万円以下の場合は月額1~2万円、5000万円を超える場合は2~3万円となります。保佐監督人、補助監督人についても同額です。

被後見人になると、印鑑証明書の扱いは?

被後見人になると、印鑑証明の登録はできなくなります。実印は重要な契約などをする場面で必要になってくるかと思いますが、そういった行為は被後見人にはそぐわない、というより不可能なので、印鑑登録も不要になるためです。また、すでに登録されている印鑑証明は、各自治体の扱いによって異なる場合もあるようですが、抹消されることが多いようです。ただし、後見が開始して自治体が印鑑証明を抹消するまでにはタイムラグがありますので、その間は事実上取得可能と言えますが。