近年、親族後見人が選任されにくくなっているのは、横領事件が頻発したためだと言われています。もちろん、残念なことに専門職後見人であっても横領事件を起こした事例は存在します。各種メディアで「司法書士(弁護士)が後見人の立場を利用して横領」など報道されているのを、見た方も多いかと思います。こういった横領行為を防止する目的もあり、司法書士には成年後見センター・リーガルサポートが存在するのですが、そういった監督機関がまったくない親族後見人の場合、専門職後見人に対して、やはり横領などの問題が発生する割合は高くなっています。

通常、親子間の横領事件の場合は刑法244条「親族相盗例」が適用され、刑が免除されます。法律は家庭に入らない、という考えのもと、家庭内のトラブルはそれぞれの家庭で解決するべきもの、というわけです。

しかし、仮に親の後見人に就任した子が横領事件を起こした場合、この規定は適用されません。つまり、横領犯として刑罰が適用されることになるのです。

なぜなのか。民法869条により、後見人には「善管注意義務」(善良な管理者の注意義務の略)が課されています。民法上は他により軽い注意義務である「自己の財産に対するのと同一の注意義務」も規定されているのですが、自分や子の財産に対する注意義務と、他人の財産に対する注意義務は、その重みがまったく異なるのです。後見人は家庭裁判所から任ぜられて、その職務を行っているのですから、ただの親族にはない重い善管注意義務を負うというわけです。そのため、親族相盗例が適用されないのです。

親族の方が後見人に就任したら、もはやただの親族ではない、と言えます。もし、「後で返すから」という気持ちで被後見人の口座から1000円でも引き出して使ったら…、実際に後で返却したとしても横領罪が成立することになります。